【専門家が解説】生理中の聴覚過敏はなぜ?

生理前の不調で、辛そうな表情を浮かべる女性。

こんにちは。大阪市の浜崎鍼灸整骨院、院長の浜崎です。
最近、施術をしていると、ある患者さまがポツリとこうおっしゃいました。
「先生、生理前になると、イライラするだけじゃないんです。食器がぶつかる音や、子どもの声が、頭に突き刺さるように痛くて…」。
耳鼻科では「異常なし」。周りにも分かってもらえず、一人で悩んでいるその姿に、私は「きっと他にも同じように苦しんでいる方がいるはずだ」と強く感じました。
この記事では、なぜ生理中に聴覚過敏が起こるのか、その根本原因と、薬や耳栓に頼らない具体的な対策について、専門家として、そして一人の「伴走者」として詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 生理中のホルモン変動と自律神経の乱れが聴覚過敏を引き起こす仕組み
  • 聴覚だけでなく嗅覚や感情も不安定になるPMSの全体像
  • 今日からできるイライラや不快感を和らげるセルフケア方法
  • 心身のバランスを整える鍼灸治療という根本的なアプローチ
目次

なぜ起こる?生理中の聴覚過敏

生理中の聴覚過敏はどんな症状?

カフェの騒音に耐えかね、耳を塞ぐ女性。
普段は気にならない音が、ある日突然、苦痛に変わる。それも、PMSのサインかもしれません。

「普段は気にならない音が、生理前や生理中になると、やけに大きく聞こえる」「食器がぶつかる音や、人の話し声が頭に突き刺さるように痛い」…これらは、生理中に起こる聴覚過敏の典型的な症状です。
単に音が大きく聞こえるだけでなく、耳の奥が痛んだり、音が割れるように聞こえたり、頭痛やめまい、吐き気を伴ったりすることもあります。音に対する苦痛から、スーパーや駅といった人が集まる場所を避けるようになり、日常生活に大きな支障をきたしてしまう、非常につらい症状です。

耳が痛い?知恵袋でよくある質問

パソコンで自身の症状について調べ、不安な表情を浮かべる女性。
耳の検査で「異常なし」と言われても、あなたの辛さは気のせいではありません。

インターネットの質問サイトなどを見ると、「生理前になると耳が痛いのですが、何か関係はありますか?」といった投稿が数多く見られます。多くの方が、耳鼻科を受診しても「特に異常はありません」と言われ、原因が分からずに一人で悩んでいます。

そのお気持ち、非常によく分かります。耳の検査で異常が見つからないのは当然で、問題は耳そのものではなく、ホルモンバランスの乱れによって、音を感じ取る脳の神経システムが過敏になっていることにあるのです。

つまり、これは耳の病気というよりは、月経周期に伴う体全体の変化が引き起こす、全身症状の一つと捉えることが大切です。
(参考:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

頭の中でキーンと音が鳴る感覚

生理前の耳鳴りで、眠れずに悩む女性。
不快な耳鳴りも、聴覚過敏と同じく、ホルモンバランスの乱れが原因かもしれません。

聴覚過敏と同時に、「シーンとした場所にいるのに、頭の中でキーンと音が鳴る」といった、いわゆる耳鳴りの症状を訴える方も少なくありません。

これも、聴覚過敏と同じメカニズムで起こると考えられています。ホルモンバランスの変動が自律神経の乱れを引き起こし、聴覚に関わる神経が興奮状態になることで、実際には鳴っていない音を知覚してしまうのです。音が不快に聞こえる「聴覚過敏」と、無いはずの音が聞こえる「耳鳴り」は、根っこでは繋がっている症状なのです。

聴覚だけじゃない、感覚過敏とは

ホルモンバランスの乱れが、五感全体を過敏にさせることを示すイメージイラスト。
生理前は、聴覚だけでなく、五感全体がデリケートになることがあります。

実は、生理前に過敏になるのは、聴覚だけではありません。PMS(月経前症候群)の症状の一つとして、聴覚、嗅覚、視覚、味覚、触覚といった、五感全体が敏感になる「感覚過敏」が起こることがあります。

【感覚過敏の具体例】

  • 聴覚過敏:普段気にならない音が、うるさく不快に感じる
  • 嗅覚過敏:香水や食べ物の匂いで、気分が悪くなる
  • 視覚過敏:パソコンの画面や、太陽の光がいつもより眩しく感じる
  • 味覚過敏:味が濃く感じられたり、特定の味が苦手になったりする
  • 触覚過敏:衣服が肌に触れる感覚が、不快に感じる

これらの症状は、女性ホルモンの急激な変動が、脳の神経伝達物質のバランスを乱し、外部からの刺激に対して脳全体が過敏に反応するようになってしまうために起こると考えられています。
(参考:公益社団法人 日本産科婦人科学会 月経前症候群(PMS)

匂いに敏感になるのも、月経前のサイン

料理中の匂いで、気分が悪くなってしまった女性。
普段は好きな香りさえも不快に感じる。それも、あなたの体が発しているサインで

前述の通り、感覚過敏の中でも、特に多くの女性が経験するのが嗅覚過敏です。「普段は好きな香りなのに、生理前になると香水の匂いで吐き気がする」「ご飯の炊ける匂いがダメになる」といった経験はありませんか?

これも、月経前症候群(PMS)の代表的な症状の一つです。女性ホルモン(特にエストロゲン)の変動が、匂いを感じ取る脳の機能に影響を与えるためと考えられています。聴覚過敏と同じように、これもあなたの体がホルモンの波に翻弄されている、大切なサインなのです。

生理中の聴覚過敏と心のセルフケア

ハーブティーを飲んでリラックスし、心のセルフケアをする女性。
体のケアと同じくらい、ご自身の心をいたわる時間も大切です。

生理前後は情緒不安定になりやすい

生理前、理由もなく気分が落ち込み、物思いにふける女性。
わけもなく涙が出たり、落ち込んだり。それは、あなたの心が弱いからではありません。

生理前や生理中になると、聴覚などの感覚が過敏になるだけでなく、心の状態も不安定になりがちです。わけもなく涙が出たり、普段なら笑って流せるような些細なことで、カッとなってしまったり…。

これは、あなたの性格の問題では決してありません。排卵後から生理前にかけて、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの量が急激に低下します。このホルモンの急降下が、「セロトニン」という、気分を安定させる働きを持つ脳内の神経伝達物質の分泌を不安定にさせてしまうのです。この生理的な変化が、情緒不安定を引き起こす大きな原因です。

うつ病が生理中に悪化するのはなぜ

生理中にうつ症状が悪化し、ベッドから出られない女性。
ホルモンの急激な変化が、心のバランスを大きく揺さぶることがあります。

普段から気分の落ち込みを感じやすい方や、うつ病の治療をされている方が、特に生理前や生理中に症状が悪化しやすいのも、前述の「セロトニン」が深く関係しています。

【注意】PMDD(月経前不快気分障害)の可能性も

もともとセロトニンの働きが不安定な状態のところに、女性ホルモンの急激な低下という追い打ちがかかることで、脳内のセロトニンがさらに不足し、抑うつ気分や不安感が強く出てしまうのです。PMSの中でも、特に精神的な症状が重く、日常生活に支障をきたすほどの状態は、PMDD(月経前不快気分障害)と呼ばれ、専門的な治療が必要な場合もあります。

感情のコントロールができない時

生理前のイライラで、感情のコントロールができずに悩む女性。
「どうしてこんなにイライラするの?」自分を責めないでください。それも、ホルモンの仕業なのです。

「自分でも、なぜこんなにイライラするのか分からない」「怒った後で、ひどく自己嫌悪に陥ってしまう」…感情のコントロールができない自分を、責めてしまう方も少なくありません。

しかし、これもあなたのせいではありません。ホルモンの急激な変動によって、脳が、いわば「アクセル全開、ブレーキ故障」のような状態になっているのです。喜びや意欲をもたらす「ドーパミン」や、興奮を促す「ノルアドレナリン」の働きを、普段なら「セロトニン」がうまく調節してくれています。しかし、そのセロトニンが不足することで、感情のブレーキが効きにくくなってしまうのです。

生理前のイライラを抑える方法

ヨガやストレッチで、生理前のイライラを和らげる女性。
体を優しく動かすことが、心の安定を取り戻すための近道です。

では、この辛いイライラと、どう向き合えば良いのでしょうか。薬に頼る前に、ご自身でできるセルフケアがあります。

対策具体的な方法なぜ効果的なのか
体を温めるぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、腹巻きやカイロでお腹や腰を温める血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎ、リラックスを促す副交感神経が優位になります。
軽い運動ウォーキングやストレッチ、ヨガなど気分を安定させるセロトニンの分泌を促し、血行を改善します。
食事の工夫血糖値を急上昇させる甘いものやカフェインを避け、セロトニンの材料となるトリプトファン(大豆製品、乳製品など)を摂る血糖値の乱高下は、イライラを助長します。栄養バランスを整えることが、心の安定につながります。

私のモットーは「やり過ぎない」こと。「今日は少し歩いてみようかな」「甘いお菓子を、ナッツに変えてみようかな」といった、小さな一歩からで良いんです。

鍼灸という、体質から見直す選択肢

ここまでに紹介したセルフケアは非常に有効ですが、それでも改善しない、あるいは毎月繰り返す辛い症状には、体全体のバランスを整える鍼灸治療が、とても有効な選択肢となります。
東洋医学では、生理周期に伴う不調を、単なるホルモンの問題としてではなく、「気・血・水(き・けつ・すい)」といった、生命エネルギーの巡りが滞っている状態や、自律神経の乱れが原因で起こると考えます。
鍼灸治療では、患者さま一人ひとりの体質を見極め、原因となっているツボに的確にアプローチします。これにより、滞っていた血行を促進し、過敏になっている神経を鎮め、ホルモンバランスの乱れにも働きかけることができます。
その場しのぎの対策ではなく、ホルモンの波に翻弄されにくい、穏やかな心と体づくりを目指す、あなたに寄り添うアプローチです。

生理中の聴覚過敏を根本改善へ|最後に覚えておきたいポイント

  • 生理中の聴覚過敏はPMS(月経前症候群)の症状の一つ
  • 原因は女性ホルモンの急激な変動による自律神経の乱れ
  • 耳の検査で「異常なし」と言われるのは脳の神経システムの問題だから
  • 聴覚だけでなく嗅覚など五感全体が敏感になる「感覚過敏」が起こることがある
  • キーンという耳鳴りを伴うことも少なくない
  • イライラや落ち込みなど情緒不安定もホルモン変動が原因
  • 特に精神症状が重い場合はPMDD(月経前不快気分障害)の可能性も
  • 感情のコントロールができないのは気分を安定させるセロトニンが不足するため
  • うつ病が生理中に悪化しやすいのもセロトニンが関係している
  • 対策の基本は体を温め血行を促進すること
  • ウォーキングなどの軽い運動はセロトニンの分泌を促し効果的
  • 甘いものやカフェインを避けバランスの良い食事を心がけることが大切
  • 症状が辛い時は我慢せず専門家に相談することが重要
  • 鍼灸治療は自律神経のバランスを整え心身両面からアプローチできる
  • 私たちのゴールは症状の改善だけでなくあなたが穏やかな毎日を取り戻すこと

あわせて読みたい|生理中の不調と「自律神経」の深い関係

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この記事の執筆者

  • 院名: 浜崎鍼灸整骨院
  • 役職: 院長
  • 年齢: 57歳
  • 所在地: 大阪市
  • 保有国家資格: 鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師
  • メディア実績等: 24時間テレビ「愛は地球を救う」チャリティーマラソンにメディカルスタッフとして参加。新聞・テレビなど取材多数。国内だけでなく海外からも患者が来院。
  • 人物像: 三児の父。趣味はラグビー、ソフトボール、ハイキング、サイクリング、映画・音楽鑑賞、食事会。地域ボランティア活動にも積極的で、災害ボランティアでは全国を駆け巡る。
  • モットー: 「やり過ぎない」
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